不動産テックにもスペースシェアリング、マッチング、VR・AR、リフォーム・リノベーション、不動産情報、価格可視化・査定、生成AIなど様々な分野があります。その中でも業務支援系の不動産テックの開発がもっとも盛んです。その理由の一つは、その効果が見えやすいところ。例えば、マッチング、VR・ARなどについては、その効果・結果については、複合的な要素(例えば、営業努力など)があり、エンドユーザーにとっては有益な情報であることは分かるが、効果検証が難しい面があります。業務支援の具体的な内容は幅広く、物件情報入力のサポート、登録した物件を各不動産ポータルサイトへアップロード、間取り図の作成、メール等による自動追客、問合せ内容のCRMへの自動取込み、重要事項説明書作成、賃貸・売買契約書作成などがあります。これら業務支援ツールは自社開発を行っている会社は少数派で、大手を含め、ほとんどの会社で、外部のサービスを利用しています。日常業務の時間短縮については、非常に有効ですが、ナーチャリングの場面では、時間の経過とともに各社のサービスの使いこなし(スキルレベル)による差は少なくなり、競争力を高める上ではボトルネックとなる可能性があります。今後、業務支援について、契約前と契約後に分けた場合、後者については多くの会社が利用する外部のサービスが引き続き有効ですが、前者については独自に開発する力が、今後の勝負の行方を分けると思われます。
不動産業界
不動産ポータルサイトが展開するリアル店舗
以前からリクルートが行っていたリアル店舗での相談サービス『スーモカウンター』に続いて、HOME’Sを運営するライフルも同様のサービス『住まいの窓口』に力を入れ始めました。この動きはAmazonのリアル店舗にも少し似ています。Amazonの狙いは、物流の拠点を増やす狙い、食品の販売促進、チャンネルの拡大などがあると言われていますが、不動産会社の営業とウェブサイトの情報提供の間のチャネルに拡大するという意味では、狙いは同じと言えます。リクルートは2022年3月時点で、全国180か所以上で『スーモカウンター』の拠点を構えています。不動産会社もこの機能を持つことができれば、いいのですが、どうしても営業活動になってしまうし、営業したい気持ちを押し殺して、同様のサービスを始めたとしても顧客からサービスの信頼を獲得するのは難しいと思われます。不動産ポータルサイトならではの、いいところを突いたサービスと言えます。不動産仲介というサービスは、本来はコンサルティングであって、この様なサービスを行うのが、理想だと個人的には思っていますが、売り主と買い主、両方の仲介に立つことができる双方代理が許される日本の不動産業界ではこうなってしまうのでしょうね。
不動産のAI査定
不動産価格をAIが判定するサービスが増えてきている。これまで不動産価格の算出は、主に比較法という手法を用いて、不動産の営業担当者が行ってきた。しかし様々な業界でITやAIを用いたサービスが盛んになる中、メールや電話、自宅の訪問などのやりとり無しで、ウェブサイト上で素早く、自宅の不動産価格を知りたいというユーザーが増えた。それに応えるサービスの一つと言える。
仕組みとしては、一般的なAIと同じく、大量の過去の取引データ(成約物件)をAIが学習し、ユーザーから入力された査定物件の所在地や広さ、築年数などの情報を元に算出される。しかし、そこで課題になるのが、価格の精度。不動産は、一般的な商品とは異なり、まったく同じものが、一つとして無い。とくに一戸建てと土地については、所在地や広さなどの条件以外に、周囲の建物の状況や敷地と道路との高低差、古家の有無、古家の構造の違いなど個別要素が多い。取引データと査定物件の類似性が低いことが多く、AIにとって難易度が高く、現時点では、一戸建てや土地の売却の際は、不動産会社に人による査定を依頼した方が無難と言える。ただ。今後は、Googleマップのストリートビューや現地写真から個別の条件を勘案し、より精度の高い査定価格を算出するサービスが出現する可能性もあり、発展が楽しみである分野の一つであることは間違い無い。
やっと日本でも浸透し始めたVR
最近、日本でもやっと浸透し始めたのが、VR(バーチャルリアリティ)です。アメリカでは、ずいぶん前からレッドフィン(Redfin)を中心にマターポート(Matterport)などのVRサービスを導入し、室内のVR画像をウェブサイトで提供しています。(レッドフィンは、不動産情報サイトの運営と不動産売買の両方を手掛ける会社で、アメリカでのシェアを伸ばし続けています。) マターポート以外にもVRを提供するサービスは数多くありますが、グーグルストリートビューのような、室内をウォークスルーできるユーザー体験を実現しているところで、マターポートが一つ頭を出しています。(ドールハウスと呼ばれる立体図、室内の寸法を計測できるサービスも提供しています。)このVRは、単にウェブサイトを閲覧するユーザー体験を高め、サイトの再訪問を促したり、問合せの角度を高めるだけでなく、実は不動産営業の物件の内覧・案内の手間を軽減する効果もあります。VRを見たユーザーは、擬似的な物件内覧を自ら行い、物件の検討進度を進めていきす。結果、不動産業者の業務効率化につながります。ただVR画像の作成には、高価な撮影機材(マターポートではiPhoneも使用可能)、撮影時間・手間が必要な為、浸透にはまだ時間がかかると思われますが、その効果に気づいた不動産会社が、積極的な導入を行うことで、ライバルに打ち勝ち、売上を大幅に伸ばす可能性があります。
まだまだ進化途中の日本の不動産テック
不動産を一般消費者が買うとき、その判断のために得られる情報が、アメリカなどに比べ日本は少ない。と言われて久しい。近年、不動産テックを活用したスタートアップ企業も出てきましたが、それでも2020年現在もその状況はさほど変わっていません。不動産の適正価格を知るための価格指標。自分たち家族にマッチする物件を客観的に判断するための情報。ひと目で理解できる災害リスク・地域性・犯罪発生率。など…。これらの情報が、手間をかけず入手できれば、家探しがスムーズで、住んでからの満足度も高まるはずです。ただ一部で新しい動きも出ています。例えば、ライフルが運営するホームズでは、ライフスタイルに合った街を見つける「まちむすび」。マンションの参考価格がひと目でわかる「プライスマップ」。リブセンスが運営する「イエシル」では、マンションの部屋ごとの相場価格がわかる「リアルタイム査定」。ウィルが運営する不動産検索サイトでは、物件ごとに適正価格がわかる「バリューメーター」など。しかしまだ情報の精度や深度には改良の余地があり、一般消費者の認知度も低いのが現状です。今後、一般消費者が、自分たち家族の背景や望むライフスタイルを入力またはスマホなどに話しかけるだけで、条件の合う物件や街、またそれに付随するリスク。近い未来の予測などを返しくれる。それにより安心、安価で不動産の売買が行え、ライフスタイルの変化に合わせて住まいも気軽に変えることが出来る。そんな世界を作ってくれることを期待したい。
ワンストップサービスの必要条件が不動産業界を変える
ただし、どの不動産会社でもこのワンストップサービスを提供できるのかと言えば、そういうわけでもありません。
顧客や仕事そのものへの向き合い方を徹底して共有し、同時に風通しよくつながる社風が土台になければ、このワンストップサービスは成立しません。
なぜなら、仮に同じ社内であっても部署ごとに確執があれば、それは間違いなく顧客のメリットにはならないからです。
例えばワンストップサービスを利用して中古物件を購入し、リフォームを希望している顧客がいたとします。
その顧客が仮に2000万円の予算で考えていた場合、部署ごとに確執のある会社では、仲介の部署とリフォームの部署が、その2000万円の予算を奪い合う、ということがしばしば見受けられます。
仲介側からすれば、できるだけ価格の高い物件を購入してもらい、物件に予算を多くかけてくれた方が売上は伸びますが、リフォーム側からすれば購入する物件の価格自体は安く抑え、リフォームにより多くの予算をかけてくれた方が売上は伸びます。
あとは何が起きるかと言えば、顧客を一切無視した部署同士の争いです。こんなワンストップサービスが顧客に満足してもらえるかどうか、結果は火を見るより明らかです。
ワンストップサービスを成立させるためには、その顧客に関わるすべての従業員が「顧客が期待している以上のサービスを提供すること」を常に意識し、同じベクトルを向いていなければなりません。
「何を買うか」はもちろん、「どのように買ってもらうか、どのように住んでもらうか」まで責任をもつという考え・姿勢が重要です。
このような考えをもつ不動産会社が増えてくれば、不動産業界のイメージは間違いなく変わっていくことでしょう。
今後の不動産業界の動向についてもっと知りたい方は、日本の不動産流通の未来を読むと良いでしょう。